2016.10.21
海での散骨ではトラブルのケースはほとんど聞きません。しかし、陸での散骨は、散骨場の設置などをきっかけに住民の反対運動が起き、2004年から08年にかけて7つの自治体で散骨を規制する条例などが可決・成立しました。最初の条例成立は、北海道長沼町でした。
04年には、札幌の会社がNPO(特定非営利活動)法人の名で樹木の下に散骨する公園を設置したことに住民や議会が反対。05年5月、町内での散骨を全面的に禁止するという全国初の散骨規制条例「長沼町さわやか環境づくり条例」が制定されました。条例には、ごみのポイ捨てや犬猫のふんの処理に関する規定とともに、散骨を規制する条項が盛り込まれたのです。しかも、散骨の事業を行ったら6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金を科すなどの罰則規定も盛り込まれた厳しいものです。
このケースでは、墓地の許可が必要な樹木葬を、許可をとらずに樹木葬公園とし、散骨樹木葬と称して遺骨を完全に粉末にしないまま木の根元にまくことを強行したため、大きな反発を招き、条例による規制にまで至ったのでした。
その後、北海道七飯町(ここのみ条例ではなく法的効力のない要綱)、長野県諏訪市、北海道岩見沢市、静岡県御殿場市、埼玉県秩父市、埼玉県本庄市が、既存の環境条例や墓地設置に関する条例に散骨場を規制する条項を追加などして規制を設けました。
ただ、散骨そのものを墓地以外で規制したのは長沼町と秩父市で、ほかの自治体は、散骨場の設置を規制しているだけで個人としての散骨まで規制はしていません。
なお、08年に問題となった御殿場市の事例では、散骨業者が「火葬した焼骨をパウダー状(粉末)にして表土に散布するため埋蔵には当たらない」と主張していました。これに対し、市が厚生労働省に判断を求めたところ、「焼骨を砕いたりすりつぶしたりしても焼骨と同様に考えられる」との見解を示しました。
これによって散骨場も墓地としての許可が必要ということになり、規制する条例が制定され、設置は認められませんでした。
ただ、この見解ですと、「パウダー状にしてもそれは遺骨だから、散骨は墓地以外では遺骨遺棄罪となる」と表明したことに等しいともいえます。法務省の1991年当時の見解と180度異なることを厚生労働省が述べたことになります。
ひとつ注意しておきたいのは、48年に制定された現行の「墓地埋葬等に関する法律」(墓埋法)は、当時まだ半数を占めていた土葬を想定し、伝染病防止などの公衆衛生上の必要から生まれたものでした。しかし、火葬がほぼ100%となった現在、散骨する遺灰そのものはリン酸カルシウムという無機物で無害です。その意味で、散骨に対して公衆衛生的な観点から問題にする必要はほとんどなく、厚労省が見解を述べるのもおかしな気がします。
◇
上野國光(うえの・くにみつ) 1956年生まれ。大学を卒業後、電機メーカー勤務などを経て、88年にイオ株式会社を設立、石のギャラリーを中心とした業務を展開する。東京都内を中心に大規模墓地や納骨堂の開発、寺院の活性化のプログラム(寺報発行サポート、墓地管理業務)などの事業に携わっている。