2016.10.21
前回ご紹介したとおり、散骨する遺灰そのものは無機物で無害です。なのに、自治体のなかに規制する動きが出るのはなぜでしょうか。それはやはり遺灰に対する思想や信条、価値観、文化、慣習などの感じ方に違いがあるからだと思います。
無害だと知っても、嫌なものは嫌という人はいるでしょう。だからこそ細心の注意を払い、そうした人に不快な感情を持たれないように最大限の配慮をしながら行う必要があるのです。また、そうした不快感などの感情がもととなり、農作物の売り上げが落ちたり観光客が減ったりする実害(いわゆる風評被害)が出ることもあり、個別には民事訴訟となる可能性もあるわけです。
長野県上田市の菅平高原(旧真田町内)では、私有地での継続的な散骨の事実を明かしたために反発が生まれ、その後、休止に追い込まれている例も出ています。
2003年から「葬送の自由をすすめる会」の会員が、私有地の山林を会に散骨用地として提供してきたのですが、反発を恐れてこれまでは地元への説明を避けてきました。
しかし、2年以上の実施の経験から、地域全体で受け入れる方がいいと思うようになり、森林保全にもつながると区長に相談したところ、「観光面や高原野菜の産地として風評被害が怖い」と断られてしまいました。
規制する条例を議会に請願する話まで持ち上がりましたが、地元住民との間で同意・理解が得られるまでは今後は実施しないと念書を交わし、条例の話も上田市へ合併にともない、事実上立ち消えになったそうです。
海外では、墓地内に散骨場がある例は珍しくないようです。しかし、このような話を聞くと、日本のように人口が密集した狭い国土では、陸地での散骨は無理なのではないかと感じてしまいます。
ただ、調べていくと、千葉県君津市の上総寺や京都市の西寿寺などのように陸で散骨している事例はあります。また、これとは別に、住民の理解を得た成功事例が島根県にありました。次回はその施行事例を紹介します。
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上野國光(うえの・くにみつ) 1956年生まれ。大学を卒業後、電機メーカー勤務などを経て、88年にイオ株式会社を設立、石のギャラリーを中心とした業務を展開する。東京都内を中心に大規模墓地や納骨堂の開発、寺院の活性化のプログラム(寺報発行サポート、墓地管理業務)などの事業に携わっている。