2018.11.08
経済小説作家、江上剛氏と「葬送の仕事師たち」などの著作があるノンフィクションライター、井上理津子氏が11月7日、東京・有楽町でお墓トークを繰り広げた。江上氏がコメディ小説「一緒にお墓に入ろう」(扶桑社)、井上氏が「いまどきの納骨堂 変わりゆく供養とお墓のカタチ」を出版した記念イベント。2人が軽妙なトークで「現代風、お墓の入り方」を探った。
江上 60歳を過ぎたら同級生との話題は病気と墓ばかりなので、私はコメディの小説にした。井上さんはどういう理由でこの本を?
井上 火葬された骨はどこにいくのか、雑司ケ谷霊園の近くに住んでいて6年間、毎日、朝夕、犬の散歩をしているうち、なんだかお墓が変わってきていると感じた二つが動機。
江上 女性誌の調査で「先祖のお墓をどうするか」などとお墓で悩んでいる人が半数存在するという実態をどう思う?
井上氏 やっと悩むようになった、というのが正直なところ。戦後70年以上過ぎ、核家族化や家の崩壊はもうかなり前から始まっているのに、お墓だけ古い形が続いていた。そこに疑問を持たなかったが、選べる自由が享受できるようになったところで悩みが始まったのだろう。
江上 私の故郷の墓は、先祖代々、大勢が眠っている。桜がきれいに咲くが、妻は「ここに入るのは嫌だ」とひと言で拒絶した。核家族化で個人を重んじるようになったのに、お墓だけは家がついて回る。女性の場合は、夫についているようで、家についているところがある。ダンナが死んだあと、そのお墓に入るかという話になる。
井上 仲のいい夫婦でも「死んでまで夫の家のお墓は遠慮したい」という人たちがびっくりするほど多くて私も驚いた。
江上 自分をいじめた姑さんとかいると思うと入りたくないだろうね。定年後、やることがなくて、家にいて奥さんの行動を監視しているだけのダンナを見送ったあと、やっぱり一緒に入りたくはないよね。
井上 自分は自分で入るという選択肢があるとわかった時点で思うわけね。選択肢がなければ、それが当たり前だと思っていた。
江上 女性には「友達とだけお墓に入りたい」とか、そういう選択あるんですか
井上 少数ですが、根強い。ムーブメントになっているという気がしました。「墓トモ」という言葉も市民権を得ている。家族、血縁じゃない人たちと一緒にお墓に入るのをよかろう、みたいな。お墓に入る前に、一緒に入ろうねという友達を作っておく。
江上 サークルみたいだ。男は、すごく仲のいい会社の同僚とでも一緒に墓には入らない。
井上 〝妙齢女子〟の飲み会で、老後一緒に住もうね、とか、その先、お墓も考えてもいいね、などと冗談でもないニュアンスもあって、話題になる。
江上 女性は家から離れたいことの表れ。
井上 職場の腹心と一緒に仲良く、お墓でもお酒酌み交わしたいと思わないですか
江上 一切思わない。田舎のお墓をどうしようという話題はあっても、「おまえと一緒にお墓入ろうか」なんて、気持ち悪い。
井上 いまから10年ぐらいすると、その感覚は変わっていくんじゃないかな、という気がする。
井上 納骨堂はお墓のスペースのシェア。空室が多いとつぶれるリスクもある。
江上 京都が好きだからと京都に買っても、子供はお参りに行ってくれない。東京の郊外の霊園でも子供は行ってくれない。だから、都心の新宿とか赤坂の納骨堂になる。
井上 お参りにいくがわからすると、駅チカで手軽にいけるのが一番。
江上 実はぼくは墓マイラー。お世話になった人のお墓にもよく行く。景色がきれいなところに行くと、自分の心が鎮まる。新宿の納骨堂で心が鎮まるかなあ?
井上 だんだん鎮まるようになるんですよ。新宿駅から徒歩5分というところでも違う空間が作られている。気持ちのところでは十分。
江上 女性誌の調査では、樹木葬、海洋散骨の希望も多い。あれがお墓というのどうなんですか?
井上 古いですね。希望者はがんがん増えてます。
江上 残された者には、よすががない
井上 古い。
江上 お父ちゃん、海にいる、と思うの?
井上 そうですよ。自然葬という言葉がある。自然から生まれた人間は、自然に還るのは理にかなう。遺骨を撒いたら、太平洋に流れていくでしょうが、そこで撒いたから、そこで手を合わせるのは霊園で手を合わせるのと同じ気持ちでしょう。
江上 樹木葬は木を選べるのか
井上 選べるところもある。
江上 なぜ、増えてきたのでしょう?
井上 やっぱり自然回帰でしょう。石のお墓はいらない。家制度の象徴であったっり、マストに必要な者ではない。土に還れる。そこに木があって、実がなって、鳥が来て、命の再生が行われていく。自分が生きた証になる。
江上 井上さんはこの本をどう読んでもらいたい?
井上 お墓は多様に選択できると知っていただいて、考えてもらえたらいい。カタログ的に読んでいただくのもいいが、納骨堂を買った人が安易に買っているわけでないことも知ってもらいたい。