2016.10.06
遺産相続で一族が相争う「争続」はだれの家庭にも起こる可能性がある。財産の多寡なんて関係ない。そこで、ありがちな争続を人気キャラクターに仮託して考えてみよう。題して「空想相続相談」。第1回はこんな相談――。
(取材協力・東京新宿法律事務所)
1カ月前、同居していた父が息を引き取りました。父は亡くなる3年ほど前から寝たきりになり、お風呂やトイレの介助は私と同居している母の2人でしていました。父は夜中にトイレに行きたくなることが多くて、頻繁に私か母を呼び出していました。それなので、私も母も満足に寝ることもできず、本当に心身ともにくたくたになった3年でした。
それなのに、ですよ。私には弟と妹がいるのですが、その2人は父の世話を何もしなかったくせに、「姉さん、遺産はちゃんと法律に従って分けようね」と言ってきました。これではきょうだい3人が同額になってしまいます。許せません! 父の家で一緒に生活している主人も「2人の言い分は筋が通らない。おまえが多くもらうべきだ」と怒っています。
父は遺言を書いていませんでしたが、先生、なんとか2人よりも多く遺産をもらう方法はないでしょうか。
(相談者 東京都世田谷区、主婦、フグ田サザエ)
明るいサザエさん一家でも相続問題に無縁ではなさそう。サザエさん一家の家系図は(図1)のとおり。法律上、波平の遺産相続する権利を持つ「法定相続人」は、妻のフネとサザエ、カツオ、ワカメの計4人。同居しているマスオには相続権も口出しする権利もない。
そして、「サザエがカツオ、ワカメよりも多く遺産をもらえるか」を、東京新宿法律事務所の齋藤康介弁護士にズバリ尋ねてみた。結論は、「この相談だけをみると、難しいですね」とのこと。
財産を遺した死亡者(被相続人)に対していろんな貢献をした人は、していない人よりも多めに遺産をもらえる制度がある。それを小難しい法律用語で「寄与分」という。サザエの相談は法律的には「親の介護に寄与分が認められるか」ということになる。
普通の感覚では、「介護で苦労したのだから寄与分を認められて当然」と思える。しかし、最終的には裁判所の判断になるものの、そんな単純なものではないよう。
寄与分は①被相続人の事業に無償か低賃金で協力していた場合②相続人がお金を出すことによって相続財産が増えるもしくは維持できていた場合③被相続人の療養看護をしていた場合――などのときに認められるとされる。
介護は③に含まれそうなのだが、さにあらず。子供には親を扶養する義務があるので、「単なる介護はこの扶養義務のうち」と考えられ、寄与分はまず認められないそうだ。
ただ、介護でも寄与分が認められるケースがある。齋藤弁護士は「サザエが介護したことによってヘルパーを雇わずにすみ、その結果、波平の財産の目減りを抑えることができたと立証できれば、です」と話す。しかし、この立証は相当な困難をともなうそうだ。
では、サザエはどうすればよかったのか。それを考えるうえで、(図2)で遺産相続の流れをみてみよう。
齋藤弁護士によると、サザエのような相談が持ち込まれるのは(図2)の①か②のときが多いという。サザエの相談もこのタイミングだったが、これでは遅きに失する。正解はというと、被相続人(サザエの場合なら波平)の死亡前だ。
「サザエのように『介護で苦労したので遺産を多めにほしい』という場合は、波平が遺言を残せる精神状態にあることが必要ではありますが、波平に遺言を書いてもらうのがベストの解決策です。遺言があれば争族を回避することができます。私たち法律家は、そのためのお手伝いをすることができますので、遺産相続でもめそうなら、亡くなる前に相談にきてください。また、もし波平が遺言を書いてくれない場合や、そもそも遺言を書ける状態にない場合には、あとで寄与分を認めてもらえるように医師の診断書など要介護の認定資料を取得し、実際に行った介護内容の記録などを残しておくのがよいです」と齋藤弁護士はアドバイスしている。
遺産相続をめぐっては、(図2)にあるとおり、分割協議がまとまらないと最後は家庭裁判所に調停・審判を申し立てることになる。この調停・審判の申し立て件数は年々増加しており(図3)、争族は人ごとではない。調停・審判が終わるまでは、2014年の司法統計年報によると、平均で11.8カ月もかかる。
こんな時間をかけるのはムダというもの。もめる前に、ぜひ信頼できる専門家に相談を。
取材協力:弁護士法人東京新宿法律事務所 https://www.shinjuku-law.jp/
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