2016.10.17
日本人には「死んだら自然に還りたい」という自然回帰指向が強くあります。散骨には抵抗がある人でも、樹木葬ならなんとなく納得でき、「悪くない」と思う人も少なくないようです。ただ、樹木葬を自然志向という視点のみから考えると、判断を誤る可能性があります。
「樹木葬」を考えるには、3つの視点が必要でしょう。
(1)自然志向、(2)承継者不要、(3)費用――という視点です。
樹木葬が人気というと、「自然葬だから」と思われがちですが、実は、「承継者が不要だから」という側面があります。
核家族化や都市化が進み、お墓を守り継ぐ人が減ってきたことは周知の事実です。また、継ぐ人がいたとしても、「子供に迷惑をかけたくない」「負担をかけたくない」と思い、承継者不要の墓を選ぶ人も増えています。
そのうえ、景気の低迷が続き経済的に困窮する人も増える一方です。お墓に入りたくても、従来のお墓は、小さくても最低7けたは下らない費用がかかります。
その点、樹木葬墓地は、たとえば1人で1本の木を“占有”するタイプでも50万円、占有しなければ20万円以内、粉末ならなんと4万円余り。墓石のある形態にこだわりがない人なら、単に安いというだけでなく自然回帰という“大義名分”もあり、魅力に感じるのは不思議ではありません。
このように樹木葬墓地は、3つの理由が入り交じって人気になっていると考えられ、絶えずその比重を意識しながらみていく必要があります。
なお、樹木葬は自然葬のひとつとして、散骨と併せて論じられることがあります。注意しなくてはならないのは、樹木葬は墓地葬であり、都道府県知事による墓地の許可が必要なことです。
これに対して散骨は、自治体によっては迷惑防止条例に類する条例ができたり、風評被害など民事的訴訟になる可能性はあったりしても、国の法的規制はありません。
散骨を推進するNPO法人「葬送の自由をすすめる会」は、墓地葬に対置する概念として自然葬(=散骨)を提唱しています。その考え方すると、樹木葬は自然葬ではないことになります。この点は十分理解しておいた方がいいと思います。
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うえの・くにみつ 1956年生まれ。大学を卒業後、電機メーカー勤務などを経て、88年にイオ株式会社を設立、石のギャラリーを中心とした業務を展開する。東京都内を中心に大規模墓地や納骨堂の開発、寺院の活性化のプログラム(寺報発行サポート、墓地管理業務)などの事業に携わっている。