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カストロ氏はすでに火葬 タイ国王の火葬は1年後 背景にある思想の違いとは・・・

2016.12.02

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タイのプミポン前国王の遺体が安置されている王宮の前に集まった人々(AP)

 11月25日に亡くなったキューバの指導者フィデル・カストロ氏が、死の直後に火葬されたニュースが流れている。一方で外電からは、10月に亡くなったタイのタイのプミポン前国王の火葬が1年後になるというニュースも流れている。「死の直後」と「1年後」。どのような考え方の違いが、火葬の日取りの差に表れくるのだろう。第一生命経済研究所の小谷みどり主席研究員に寄稿してもらった。


 10月13日に死去したタイのプミポン国王の火葬は、1年間の服喪があけた後に行われる。国王を火葬するための施設がバンコクの王宮前広場に建設される。日本人からすると、逝去から火葬までそんな長い日数をあけることを不思議に思う人は多いだろう。
タイでは身分の高い人や有名人が亡くなった場合、数カ月以上も火葬をしないことは珍しくない。例えば、プミポン国王の姉は2008年1月に亡くなっているが、火葬されたのはその年の11月。2009年11月に亡くなったサマック元首相は翌年の11月に火葬されている。

■著名人の死後は、延々と通夜が続く

 タイでは一般人が亡くなった場合、故人の立場に応じて、日本の通夜にあたる儀式が3日間、5日間、7日間などと続く。通夜の施主は連日変わり、施主がその費用を負担する。通夜が終わった翌日から葬儀が始まり、火葬は初日に行われる。
つまり、著名人や社会的な立場が高い交友関係の広い人ほど、通夜の回数が多くなり、葬儀や火葬をするまでに時間がかかる傾向にあるというわけだ。筆者の友人の父親はタイで会社経営をしていたが、彼が亡くなったときには、火葬までに100日以上かかった。

■遺体への執着はなし・・・死は新たな生の始まり

 そんなに火葬までの期間が長いとなれば、さぞ遺体への執着が強いのかと思いきや、実は遺体そのものへの執着はなく、火葬後も墓は建てずに、川などに散骨するのが一般的だ。現地のテレビや新聞では、事故や事件で亡くなった無残な遺体の写真が報道されるのは日常茶飯事だ。日本ならありえない。
タイ人の多くが上座部仏教を信仰しているが、同じ仏教でも日本の大乗仏教とは、死生観も大きく異なる。タイ、ミャンマー、ラオスなど上座部仏教の国々では、魂は死と同時に輪廻転生するため、死は新たな生の始まりだと考えられており、遺体に対する感覚は日本人と大きく異なる。

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カストロ氏の遺灰(遺骨)はひつぎに納められ、葬列を組んで墓地まで運ばれた(AP)

■本人が死後すぐの火葬を希望

 プミポン国王と対照的なのが、1959年のキューバ革命を主動し、政界引退後も国内外に影響力を保持したフィデル・カストロ前国家評議会議長のケースだ。遺体は死後翌日の11月26日に本人の意思に従って火葬された。
キューバはもともとカトリック教徒が多い国だったが、カストロ氏はマルクス・レーニン主義者で、キューバ革命後はカトリックなどの宗教を厳しく弾圧したことで知られる。現在のキューバでは、法律上では信仰の自由は保障されているものの、宗教活動に対する規制は続いている。

■遺体が崇拝対象になるのを避けたかった?

 ところで、カストロ氏はなぜ、死後すぐに自分の遺体を火葬にするよう、言い残していたのだろうか。その理由のひとつが、遺体の偶像崇拝化を避けるためではないかと考えられる。
社会主義国のなかには、最高指導者の遺体を保存し、崇拝の対象としている国がある。たとえば、ソビエト連邦の初代最高指導者レーニン。死後92年が経過するが、モスクワのレーニン廟に、ソビエト連邦が崩壊した現在でも安置されている。中国では毛沢東の遺体が天安門広場の毛主席紀念堂に、ベトナムではホーチミンの遺体がホーチミン廟に、北朝鮮では平壌郊外の錦繍山太陽宮殿に、金日成主席と金正日総書記の遺体が安置されているほか、2013年に亡くなったベネズエラのチャベス大統領も、革命博物館に安置されている。

 カストロ氏と一緒にキューバ革命に成功し、「1960年頃、世界で一番かっこいい男だった」とジョン・レノンにいわしめたチェ・ゲバラの遺骨はゲリラ兵士の遺骨とともに、カストロ氏によって立派なチェ・ゲバラ霊廟に安置されている。

■偉人を崇拝したい周囲

 死後すぐの火葬を望んだカストロ氏の目的が、遺体の偶像崇拝化を避けるところにあったとしても、本人の意志に反して墓が偶像崇拝の対象になる可能性は高い。
 すでに遺灰(遺骨)は荘厳な車列を組んで12月1日に首都ハバナを発ち国内を800キロ以上移動し、キューバ革命が始まったとされる東部サンティアゴ・デ・クーバの墓地に埋葬されることになっている。
遺灰は、多くの国民が目にすることができるように、大型のガラスケースでできたひつぎに納められているのだという。遺体ではなく、遺灰を沿道の国民に見せながら運ぶという方法は、社会主義国の指導者の死去の事例の中では斬新だ。

 いずれにせよ、タイの有力者が亡くなった場合、お別れの儀式が連日続き、なかなか火葬されなかったり、社会主義国家の指導者のように遺体や遺灰を政治利用されたり、静かに眠れない故人は少し気の毒な気がするのは筆者だけだろうか。


 【こたに・みどり】 第一生命経済研究所主席研究員。博士(人間科学)。大阪府出身。専門は生活設計論、死生学、葬送問題。最新著は、『ひとり終活 不安が消える万全の備え』(小学館新書)。他に、『だれが墓を守るのか-多死・人口減少社会のなかで』(岩波書店)、『今から知っておきたいお葬式とお墓45のこと』(家の光協会)、『変わるお葬式、消えるお墓<新版>』(岩波書店)、『こんな風に逝きたい~ホスピスからお墓まで』(講談社)など。共著多数。


 

     
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