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一条真也の供養論㊸ 亡き息子に会う映画『安魂』

2022.02.01

 今夏の閉館が決定した神保町の岩波ホール(東京都千代田区)で日中合作映画「安魂」を観た。中国の小説を原作に「火垂るの墓」「こどもしょくどう」などの日向寺太郎監督が、中国・河南省開封市で中国人キャストをメインに撮り上げたヒューマンドラマである。ウェイ・ツーやチアン・ユーのほか、日本からAKB48元メンバーの北原里英が出演している。
 主人公の唐大道は、高名な作家である。彼は、息子の英健の恋人が農村出身だということを理由に結婚したいという二人を別れさせる。失意の英健は脳腫瘍に倒れ、大道に「父さんが好きなのは、自分の心の中の僕なんだ」と言い残し、29歳の若さで死去する。大いなる喪失感を抱えながら英健の魂の行方をたどろうとする大道は、英健にそっくりな劉力宏と出会う。

 地位も名誉も手に入れた有名作家の唐大道は、自らの選ぶ道こそが正しいと信じて疑わない独善的な人間である。しかし、一人息子の急死という突然の悲劇によって、大道の絶対的な信念は脆くも崩れ去る。彼は、「息子が本当はどんな生き方を望んでいたのか」と思い、息子の魂を探し求める。このとき、仏教もキリスト教もイスラム教もエジプトの『死者の書』も、どれも死者の魂が7日間この世に留まると述べていることが紹介されるが、「初七日」の普遍性が示されて興味深かった。
 さて、大道は息子の生き写しとも思える力宏と邂逅するが、ふつう、死んだはずの自分の息子と同じ姿の青年が目の前に現れたら、悲嘆に囚われた者ほど、愛しい人の生まれ変わりか、蘇生か、幽霊のいずれかだと思うのではないだろうか。
 しかし、今回のケースでは生まれ変わりにしては年齢が合わず、蘇生ということはありえず、最後の幽霊という可能性だけが残る。そして、幽霊の出現というのは、結局は葬儀の失敗ということに帰結する。大道は悲しみのあまり英健の霊魂を彼岸へと送る葬送儀礼がうまくできず、大いに心を迷わせたように思えた。

 幽霊でもいいから亡き愛する者に会いたいというのはグリーフケアの範疇だが、それでも残された者は最後には愛する者の死を現実として受け止め、生きていくしかない。映画の後半で、モーツァルトの「レクイエム」が素晴らしいのは、「悲しみではなく喜びを表している」と大道と力宏が会話するシーンがある。大切な人の葬儀で、ただ悲しむだけでなく、その大切な人と出会えたこと、かけがえのない縁を得られたことの喜びを感じることができたら素敵だと思う。そのとき、葬儀は「人生の卒業式」という未来への旅立ちのセレモニーとなることだろう。

 いちじょう・しんや
 1963年生まれ。福岡県出身。早稲田大学政治経済学部卒。本名は佐久間大手冠婚葬祭会社サンレー社長。『老福論』『葬式は必要!』『愛する人を亡くした人へ』『命には続きがある』『儀式論』など著書は100冊以上。2012年、『論語』の精神の普及により、第2回「孔子文化賞」を受賞。上智大学グリーフケア研究所客員教授。


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  • 一条真也さん

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