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【一条真也の供養論】⑦「こころ」と「かたち」

2019.02.01

 わたしは毎年、年末に「一条賞」というものを発表する。読書篇と映画篇の二大ジャンルでその年のベスト10をランキングにして発表するのだが、昨年の「一条賞」読書篇第1位は、森下典子氏の『日日是好日(にちにちこれこうじつ)』(新潮文庫)が輝いた。

 この本には「『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」というサブタイトルがついている。著者は、お茶を習い始めて25年。就職につまずき、いつも不安で自分の居場所を探し続けていた。失恋、父の死という深い悲しみのなかで、気がつけば、そばにいつも「お茶」があった。
 お茶の世界は作法に厳しく、がんじがらめの決まりごとだらけだが、その向こうには「自由」があった。「ここにいるだけでよい」という心の安息を得て、雨が降れば、その匂いを嗅ぎ、雨の一粒一粒を聴く。めぐる季節を五感で味わう歓びとともに、著者は「いま、生きている!」という感動をおぼえるのである。

 この本は現代の『茶の本』であり、かつ『水の本』という本質を持っている。雨、海、瀧、涙、湯、茶などが重要な場面で登場するが、これらはすべて「水」からできている。地球は「水の惑星」であり、人間の大部分は水分でできている。「水」とは「生」そのものなのである。
 水は形がなく不安定だ。それを容れるものがコップである。水とコップの関係は、茶と器の関係でもある。そして、ここが重要なのだが、水と茶は「こころ」のメタファーである。「こころ」も形がなくて不安定だからだ。だから、「こころ」は「かたち」に容れる必要がある。

 その「かたち」には別名が存在する。「儀式」だ。茶道とはまさに儀式文化であり、「かたち」の文化である。人間の「こころ」は、どこの国でも、いつの時代でも不安定だ。だから、安定するための「かたち」すなわち儀式が必要なのである。そこで大切なことは先に「かたち」があって、そこに後から「こころ」が入るということ。逆ではダメだ。「かたち」があるから、そこに「こころ」が収まるのである。 

 人間の「こころ」が不安に揺れ動く時とはいつかを考えてみると、子供が生まれたとき、子供が成長するとき、子供が大人になるとき、結婚するとき、老いてゆくとき、そして死ぬとき、愛する人を亡くすときなどである。その不安を安定させるために、初宮祝、七五三、成人式、長寿祝い、葬儀といった一連の人生儀礼があるのだ。日本人は、もっと「かたち」としての儀式の力を信じるべきではないだろうか。


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  • 一条真也さん

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